FRONTIER JOURNEYとは

FRONTIER JOURNEYでは、サンフロンティアに関わる社内外で活躍するさまざまな「人」に焦点を当て、
仕事への想いや人生哲学を深くお聞きし、私たちが大切にしている「利他の心」や新しい領域にチャレンジし続ける「フロンティア精神」についてお伝えしています。
人々の多彩な物語をお楽しみください。

Vol. 040

島の潮風に音色をのせて
音楽家たちが創る“本物”を届けるジャズ文化を

しま夢ジャズ音楽監督
大山 渉Wataru Ohyama

ジャズミュージシャン
TOKU 

2023年8月4日

「島の持続可能で豊かな成長を通して島国ニッポンを元気に!」というコンセプトのもと、そのモデル創りを進めているのが新潟県・佐渡。地域創生事業“しま夢”は着々と進められている。その一貫として、島の魅力とジャズの楽しさを伝えるジャズフェスティバル「しま夢ジャズ・イン・佐渡2023」が、8月に初開催される。
音楽監督を務めるのはかつてジャズインストゥルメンタルバンド、PE’Zのトランペッターとして人気を博し、現在はBimBomBam楽団を率いる大山渉氏。彼自身の夢でもあったジャズフェス開催の思いに共鳴して国内外のアーティストが集まる中で、地元新潟出身のヴォーカリスト&フリューゲルホーン奏者TOKU氏も参加する。ジャンルを跨いで世界中のアーティストと共演を重ねる名ジャズプレーヤーだ。
シーンを牽引する2人の音楽家が力を注ぐ「しま夢ジャズ」。フェス開催に臨む2人の思いを聞いた。

地元初の音楽スタジオを建てた父の影響
音楽に囲まれて育った幼少期 (TOKU氏)

日本のジャズシーンを語る上で欠かせないTOKU氏と大山氏。国内外で広く活躍するミュージシャン2人が辿ってきた人生とはどんなものだったのか。新潟県三条市で育ったTOKU氏は、幼少期から音楽が身近にあったと語る。

「親父の影響でいろいろな音楽を聴いていました。歌番組で当時の流行歌を聴く一方で、親父が好んでいたスティーヴィー・ワンダーなどの洋楽にも触れる。ちょうど『We Are The World』がつくられた頃で、リアルタイムで親父と一緒に映像を観たのを覚えています」(TOKU氏)

無類の音楽好きだったというTOKU氏の父。本業とは別に、バンド練習・レコーディング向けのレンタル音楽スタジオを開業するほどの入れ込みようだった。

「バンドブームが盛り上がっていた80年代に地元初の音楽スタジオを開業したんです。ミュージシャンになりたかった親父は、家業を継いでも、地元のミュージシャンをサポートしたいという思いが強かったんでしょう。ブース1つとコンソールルームがある施設でしたが、予約がひっきりなしに入っていました。親父は趣味で自分のバンドももっていて、週末になると家にメンバーが集まって、夜通しブルーグラスを演奏していた。僕はそれを見ながら育った」(TOKU氏)

音楽を聴くだけではなく、演奏するのが当たり前の環境で育ったTOKU氏だったが、自身が楽器に初めて触れたのには、あるきっかけがあった。

「小学校まではサッカー少年だったんですが、中学校に進むとサッカー部がなかった。仕方なくのぞいた吹奏楽部が気に入って。そこで担当になったコルネットが楽器との最初の出合い。とはいえ、譜面を読むことも真面目に練習することもなく、隣の人の演奏を聴いて、コピーすることで合奏の時間を乗り切ってました(笑)」(TOKU氏)

譜面を読まずに耳で聴いた音を再現できる、いわゆる絶対音感を自然と使いこなしていたTOKU氏。家庭環境の面でも、才能の面でも、音楽人として生きていく条件が整っていた彼が、数ある音楽のなかでもジャズの道を選ぶまでには、少し間が空くことになる。

斑尾高原で出会った
ジャズフェスティバルの感動 (大山氏)

一方の大山氏も、TOKU氏と同様、音楽に自然と親しむ家庭環境で育った。なかでも彼がミュージシャンとしての人生を歩み始めるきっかけとなったのが、あるジャズフェスティバルだ。

「子どもの頃、病弱だった僕の体質を治そうと、母が新潟と長野の県境にある斑尾高原に連れて行ってくれました。東京育ちだったから、山のなかが楽しくて夢中になって遊んでいたんですが、遠くから音楽が聴こえてきた。それがジャズフェスティバルでした。せっかくだからと、家族で会場の外から様子を眺めつつ休憩していると、会場のほうから、1人の外国人が近寄ってきたんです。怒られるのかなと思ったら、僕たちを会場のなかへ招待してくれた。そこでライブというものを初めて目の当たりにしました」(大山氏)

1982年に始まり2003年まで開催された「ニューポート・ジャズ・フェスティバル・イン・斑尾」。ディジー・ガレスピーやB.B.キングといった巨匠や、日本を代表するトランペット奏者である日野皓正も出演する野外フェスだ。間近で見る生演奏のジャズに感動した大山氏は、自身もプレーヤーとしての道を歩み始める。

「そこからトランペットとの人生がはじまりました。7歳ごろかな。僕はTOKUさんとちがって耳で覚えられなかったから、カタカナで音程を書き起こして楽譜をつくって練習しました」(大山氏)

そしてその後はジャズまっしぐらと思いきや、意外な寄り道もあった。

「実は高校3年間は音楽ではなく、柔道に打ち込みました。元々、周りが見えなくなるくらい没頭する性格なので、トランペットもまったく吹かずにオリンピックを目指すぐらいの真剣勝負。ところがある時、強豪校との実力差に直面する機会があって、簡単なことじゃないな、と。それでトランペットにまた戻りましたね」(大山氏)

原体験としてのマイルス・デイヴィスを経てジャズプレーヤーの道へ

新潟と東京。異なる土地で育った2人を、ジャズの道へと導いた共通の原体験がある。モダンジャズの帝王とも称されるマイルス・デイヴィスの来日ツアーだ。

「親父がとにかくマイルス好きで、小学生のときに新潟公演に連れて行かれて」(TOKU氏)

「TOKUさんが観た同じツアーの東京公演を、僕も小学生のときに」(大山氏)

マイルス・デイヴィスが奏でるトランペットを、幼い頃に間近で見た2人。それぞれがジャズミュージシャンになる道のりで、トランペットを手にしたのも、自然な成り行きだったのかもしれない。
トランペットをはじめたばかりの大山氏が最初に選んだ練習曲は、マイルス・デイヴィスのカバー曲だった。

「彼がマイケル・ジャクソンの楽曲をカバーした『Human Nature』を練習しました。メロディアスで、取り組みやすいんですよ」(大山氏)

一方のTOKU氏は、ドラムやベースなどさまざまな楽器に触れた青春時代を経て、大学入学後にマイルス・デイヴィスと再会、本格的にジャズにのめり込む。

「アルバイト先のCD屋でマイルス・デイヴィスのアルバムを買ったんです。そのなかの一曲を練習して、とあるハコで飛び入り演奏したら、共演者から『マイルスとまったく同じメロディで吹いてたけど、どういうこと』って聞かれて。僕はそれまで即興で演奏するというジャズのことを知らなかった。そんな面白い音楽がこの世の中にあったんだと衝撃を受けて、それからドハマリしました」(TOKU氏)

異なる音楽遍歴の中にマイルス・デイヴィスという共通の接点を持ち、2人はプロミュージシャンとしての道を歩みはじめる。

TOKU氏は2000年にレーベルデビュー。トランペットからフリューゲルホルン奏者、ヴォーカリストへと表現の幅を広げていった彼は、ジャズはもちろん、数々の邦楽アーティストの作品にも関わりつつ、シーンを代表するプレーヤーとなる。大山氏は1999年にPE’Zを結成。活躍の場をストリートから海外へと広げ、彼の原点である「ニューポート・ジャズ・フェスティバル・イン・斑尾」にも出演を果たす。2015年にPE’Zを解散後、BimBomBam楽団を結成。自身のソロプロジェクトに加え、バンドとレーベルの機能を兼ね備えた「株式会社衣食住音」の代表として経営にも携わるなど、幅広く活躍している。

それぞれの道のりで真摯に音楽と向き合い続けてきた2人が、長いキャリアの先で思いを交えたのが「しま夢ジャズ」だ。

「しま夢ジャズ・イン・佐渡2023」で広げたい 世代を超えた輪

今後10年にわたり佐渡でジャズ文化を創っていく――。その第一歩として開催される「しま夢ジャズ・イン・佐渡2023」。アフターコロナにおける音楽フェスの変容、音楽ジャンルの多様化など、さまざまな角度からジャズフェスのあり方が問われる時代に、新たな歴史を紡ぐ。その野心的な取り組みに、音楽監督として手を挙げたのが大山氏だった。

「演者として出るだけではなく、人を集めてそういう場をつくる側に立ちたいという思いをずっと持っていました。だから、今回のフェスの話はチャンスだと思って食らいついた」(大山氏)

名乗りを上げた大山氏の胸中にあったのは、幼少期に見たジャズフェスへの憧憬だった。

「斑尾高原で出会ったジャズフェス。僕にとってのジャズフェスの原点であり、極みでもある。いつか自分でそういうフェスをつくるのが、小さい頃から抱いていた夢だった。もちろん、簡単じゃないのはわかっていました。まずはジャズフェスと銘打つ以上、ちゃんとジャズを感じられるステージにしないとダメ。だから最初に出演をお願いしたのがTOKUさんでした」

TOKU氏はどのような思いで大山氏のオファーを受けたのだろうか。

「話を聞いて、直感的に面白いと思った。ちょうど今、新潟には若くて優秀なミュージシャンが集まっている。勢いに乗っているミュージシャンたちが、東京ではなく新潟を拠点としてくれているんです。僕はデビュー以来、さまざまな土地で現地のミュージシャンとの交流を楽しんできた。今はそれが地元新潟でできるのがすごくうれしい。だから若手にもいろいろな経験をさせてあげられるいい機会にもなると思いました」(TOKU氏)

TOKU氏が「しま夢ジャズ」出演にあたり率いるバンドは「TOKU & NGT Connection」。新潟(NGT)の名を冠する通り、新潟の若手ミュージシャンとのコラボレーションを核としている。世代の垣根を超えたつながりを新潟に広げたいTOKU氏の思いに、大山氏も共鳴する。

「TOKUさんも僕も、新人のときと変わらない気持ちでいるけど、実際はキャリアが積み上がっている。だから僕らが中心となって、若手が育つ土台を積極的につくっていきたい。TOKUさんがいて、若手もいる場を輝かせるのが理想。ゆくゆくは日野皓正さんの世代まで輪が広がれば最高ですね」(大山氏)

佐渡の魅力、ジャズの楽しさ伝えるしま夢 10年続くジャズフェスティバルの夢

佐渡に本拠地をおく世界的和太鼓集団「鼓童」もしま夢のコンセプトやしま夢ジャズ開催の意義に共感し直ぐに共演を決めた。アフロビートバンド「Afro Begue」をはじめとする、国内外で活躍するアーティストたちやファンはもちろん、誰もがジャズの楽しさを感じられるように考え抜かれたブッキングだ。

「絶妙なバランスで組めたと自負しています。初めてジャズに触れる人でも楽しめる音楽フェスでありながら、高度なジャズを感じられるはずです」(大山氏)

「しま夢ジャズ」が開催される日の前後には、野外フェスティバル「アース・セレブレーション」と「佐渡国際トライアスロン大会」という、いずれも大きなイベントが控えている。両イベントの間に「しま夢ジャズ」が入ることで、地元の熱量も一層高まり、協力団体やボランティアが増えているという。初開催となる今回は両津港を中心に会場が広がる「しま夢ジャズ」だが、将来的には美しい佐和田の海岸と繋げる全長18kmのジャズストリート構想も。巻き込む人々が増えれば十分に実現可能な夢だろう。

大きな夢の入り口に立つ2人に、今後、成し遂げたいことを聞いた。

「若手を中心に、自分と向き合って日々鍛錬するミュージシャンが報われる土壌をつくりたい。日本は実力主義じゃないところがあるから」(TOKU氏)

音楽に限らず、本物の価値が評価されない日本社会へのもどかしさをTOKU氏は吐露する。

「自国にせっかくいいものがあるのに、それを応援する空気が希薄。佐渡には昔ながらの商店が残ってて、オーセンティックな価値、他の地域にはない価値をずっと生み育てています。これを継承する方法を探すのは難しいけど、自分のやり方でできることをやって、段階的に注目が集まっていけばいいと思っています」(TOKU氏)

その期待は「しま夢ジャズ」にも向けられる。大山氏は、目の前の一事に集中することで期待に応えようとしている。

「僕にとって今の目標は、目の前の『しま夢ジャズ』を成功させること。成し遂げたいことは、今一番を乗り越えること。そのために今を生きるという感じです」(大山氏)

「彼ならつくってくれると思う。出演者のご家族も佐渡に来ると言っている。そういうところがいい。既にこのフェスのオリジナリティが出ていると思います」(TOKU氏)

今後10年、さらにはその先にも、「しま夢ジャズ」が出演者、観客、佐渡の人々をつなぐ夢として広がり、ジャズフェスティバルの定番として日本から世界にも発信していく。そんな光景が今から目に浮かぶようだ。

Next Frontier

FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン

オーセンティックな価値が評価される土壌をつくる(TOKU氏)
10年続くジャズフェスの夢を成就するため、今を生きる(大山氏)

編集後記

佐渡への思いを語る中で、「昔、祖父母に連れられた佐渡金山が世界遺産になってほしい」と漏らしたTOKU氏。
現在、ユネスコの世界遺産暫定リストに記載されている佐渡金山は、実は芸能と深い関係を持つ土地。かつて金銀山が栄えた佐渡には、国内各地から人々が集まったため、多様な文化が持ち込まれました。特に能が盛んで、今でも佐渡には30以上の能舞台が残されています。他にも、坑内作業の無事を願う唄「やわらぎ」や舞と太鼓により演じられる「鬼太鼓」など、豊かな芸能文化が今も息づいています。
インタビュー終盤、「佐渡金山が世界遺産に登録されたら記念式典で一緒に演奏しよう」と笑い合った2人。もし実現すれば、佐渡金山から芽吹いた芸能の歴史に、「日本のジャズ」が新たに加わるのかもしれません。
しま夢ジャズ・イン・佐渡は2023年8月26日と27日の二日間開催されました。

Youtubeにて「しま夢ジャズ・イン・佐渡」の公式動画をご視聴いただけます。

いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。

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関連先リンク

島の魅力×ジャズの楽しさを伝える
新しい音楽フェス「しま夢ジャズ・イン・佐渡 2023」
2023.8.26-27 開催

公式サイトはこちら

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