FRONTIER JOURNEYとは

FRONTIER JOURNEYでは、サンフロンティアに関わる社内外で活躍するさまざまな「人」に焦点を当て、
仕事への想いや人生哲学を深くお聞きし、私たちが大切にしている「利他の心」や新しい領域にチャレンジし続ける「フロンティア精神」についてお伝えしています。
人々の多彩な物語をお楽しみください。

Vol. 017

避難者一人ひとりの声に、心に、
寄り添い続ける。
立場を超えて「伴走」する支援

日本YMCA同盟 総主事
田口 努Tsutomu Taguchi

日本YMCA同盟 執行理事
横山 由利亜Yuria Yokoyama

2022年11月18日

「A YOTSUYA」で開催された、日本へと避難してきたウクライナの人々に向けたイベント「Ukraine Café HIMAWARI」。Vol.16に紹介した中山誠弥さんも登壇したこのイベントを企画運営したのが、「公益財団法人日本YMCA同盟」だ。国内外でさまざまな支援活動に従事してきた彼らは今、どのような想いでウクライナの人々を支援し、どのような未来を見つめているのか。日本YMCA同盟で総主事を務める田口努氏と、執行理事でイベントの責任者でもある横山由利亜氏にお話をうかがうと、そこには、愛と奉仕という「利他」の心にあふれた、暖かい眼差しがあった。
※総勢10名のアーティストにより描かれた26面のミューラルアートが各執務スペースに配されたクリエイティブ・アートオフィス

必然だった福祉の道。
そして何かに導かれるように、生涯をともにする仕事へ

YMCAは、1844年にイギリスで設立され、現在では120の国と地域で約6,500万人の会員を有する世界最大級の青少年育成団体だ。教育・スポーツ・福祉・文化など幅広い分野で事業を展開しており、「日本YMCA同盟」は、その拠点のひとつとして1880年に設立された。東日本大震災や熊本地震における被災地支援活動、世界各国のYMCAと連携しておこなう難民支援活動、そして多様なニーズに応えた教育プログラムなど活動は多岐にわたる。

「YMCAに入って40年、これまで多くの子どもたちと触れ合ってきました」。そう語る田口努氏は、総主事として日本YMCA同盟の運営や、各活動の管理・監督を行う多忙な日々を過ごしている。

田口氏は、福島県いわき市生まれ。児童福祉の仕事をしていた両親はそれぞれ東京と高知の出身、福島は縁もゆかりもない土地だったが、両親はこの地に障がいを持つ子どもたちを支援する施設の創設に関わった。その施設が田口家のすぐ隣だったこともあり、子どもたちとは24時間いつも家族のように過ごしていたという。しかし田口氏自身は、子どもたちと触れ合うなかで、障がい者を取り巻く社会の在り方に疑問を抱くようになる。

「小さな頃から、私は普通の小学校に通い、家族同然の子ども達は障がいがあるとはいえ養護学校に通うことに戸惑いがありました。当時は、障がいのある子どもを家族が隠すような悲しい時代であり、そうした子どもは施設に預けることが良いとされていたんですね。でも、施設に預けられている限り、子どもたちは地域の方々と触れ合う機会がありませんし、教育の機会も施設のなかだけに限られてしまう。漠然とではありますが、そういった子どもたちが広い世界に触れる手助けができれば、と感じていました」

大学入学後、YMCA主催の野外キャンプにボランティアとして参加したことをきっかけに、YMCAの活動に精力的に取り組むようになった田口氏。1976年に発生したフィリピン・ミンダナオ島地震の被災地支援や、1978年の宮城県沖地震の被災地支援など、国内外のさまざまな支援活動に従事した。そんななかで、幼い頃から感じていた、障がいを持つ人が地域と触れ合う機会をYMCAなら広げられると感じ、卒業後、横浜YMCAの職員となった。
横浜YMCAでは、全盲の子どもたちに向けた水泳教室や鎌倉市を含む地域の青少年活動などを担当。田口氏が特に印象的だったと語るのが、横浜市の待機児童対策の一環として実施した新規保育園の立ち上げ事業だ。

「その保育園には、ベトナム戦争で避難してきた方のお子さんや中国残留孤児のお子さんなどさまざまな背景を持った子どもたちがたくさん在籍していました。当時、日中戦争から70年近く経っていたにもかかわらず、戦争の影響を受けている子どもが多いことに衝撃を受けましたね」

人生の大半をYMCAの活動に捧げてきた田口氏。今日までの長年にわたる活動を支えたのは、幼少の頃に見つめていた父の背中だ。

「父にも障がいがあったんですね。だからこそ、父は同じような境遇の子どもたちを放っておけなかった。これはのちに感じたことですが、そういう生き方を間近で見て育ったので、私もその信念を一緒に担いたいという気持ちになったんだと思います。
亡くなったあと、父の部屋からYMCA関連の本がたくさん出てきて、福島の実家横の施設が実はYMCAの施設だったことを知りました。驚きと同時に、感激しました。何かに導かれているようでした」

孤立しがちだった自分に、
人と人が支え合って幸せを生み出す“社会”を
YMCAが教えてくれた

今回の「A YOTSUYA」で開催されたイベントの責任者であり、ウクライナ支援活動を先導してきた横山由利亜氏。彼女は、京都府宇治市に生まれ、銀行員だった父の転勤に伴い、小中学校時代は合計6度の転校を経験した。思春期に環境が何度も変わるという経験は、幼かった横山氏の人生に大きな影響をあたえ、「周りの人たちを自然と観察するようになった」という。

「周囲と早く馴染むためには、どういう役割が求められているか、どういうコミュニケーションをとればうまく振る舞えるかということを常に考えていましたね。そのときの経験は、文化の大きく異なる人たちをサポートする際などに役立っていると思います」

転校を繰り返すなかで、いじめを受けた時期がある。学校に行く意味を感じられなくなった横山氏を救ったのは、本や落語、映画などのカルチャーだった。自分の尊厳や価値観、生きる力、そして自らの手で新しい世界を構築できることを数々の名作から教わったのだ。バブル真っ只中の女子大時代は、きらびやか学生生活を送る周囲を横目に、聖書や哲学書を読みふけった。就職先として“当時の女子大生らしからぬ”横山氏へ、ゼミの先生から勧められたのが、「日本YMCA同盟」だった。

「当時からYMCAは年齢や性別、キャリアの異なるさまざまな人たちが志を一つにして活動していたんですね。そうした意識のある先輩たちが、若い自分に期待をかけてくれることがとてもうれしかった。あれから30年という間、周囲とのつながりという意識が希薄だった私に、みんなで助け合って幸せを生み出す“社会”というものをYMCAに教えていただきましたね」

YMCAで自分の存在価値を感じることのできた横山氏は、阪神淡路大震災の災害支援やベトナムのワークキャンプなど様々な活動に取り組む。しかし、ある時、大きな壁にぶつかる。「女性の社会進出」というジェンダーの問題だ。

「私が生まれ育った家では、家計や行事など大事なことは女性が決めていました。でも、今の社会では、大事なことを決めるのは男性が中心。当時のYMCAですら、女性の在職平均年数は6年ほどしかなく、どんなに情熱があっても思うような活動が続けられない環境でした。そこで、学生たちとジェンダーを考える会を立ち上げ、勉強会やフィールドワークを始めました」

横山氏がいうジェンダーの問題、例えば“女性の働き方”などについては、ウクライナの避難者にも通じる部分がある。男性は兵役で出国できないため、実に避難者の8割が女性であり、その多くが母子。避難生活が長期化している現在、彼女たちは働くことが必要な経済的事情があるのだ。ウクライナの女性たちに支援の手を差し伸べることは、横山氏にとっては必然だった。

「戦争は人の命を奪うだけではなく、何気ない日々の生活を一瞬にして奪い去ってしまう行為です。そんな突然の不幸に見舞われた女性たちの不安をどのように解消するべきか。避難が始まってからこれまで現実的かつ具体的に取り組んできたことが実を結びはじめ、皆さんからも注目していただいています。とてもありがたいです」

来日した避難者だけを支援すればいいわけではない。
「今」も、「未来」も、支え続ける

日本YMCA同盟がウクライナの避難者を支援することになったきっかけは、ロシアの侵攻が始まって間もない3月初旬、「ウクライナにいる母親を日本に呼び寄せたい」という女性の相談だった。
横山氏はウクライナの隣国ポーランドのYMCAの担当者と60回以上も連絡を取り合い、現地の状況や避難ルートを何度も確認。出国から来日まで2週間にわたってサポートし、日本への避難を実現させた。これまでに71組155人の来日を支援している。

「戦争前から日本には約1,900名のウクライナの方々が生活をしており、彼らから年老いた両親や妹を呼び寄せたいという相談が相次ぎました。彼ら自身もコロナ禍で仕事を無くされ、不安定な生活をしているのに、家族を受け入れる環境を整えるために必死にがんばっています。日本に住んでいる方々とコミュニケーションをとって信頼関係を築き、彼らを支えることが避難者を支えることにつながるんです」(横山氏)

横山氏の言葉通り、日本YMCA同盟は、来日そのものの支援だけでなく、オンラインの日本語教室や生活相談を開催するなど日本での生活支援にも力を注いでいる。また、東京都との協働プロジェクト「ポプートヌィク・トーキョー」を始動し、避難者の抱える課題と行政・民間団体の支援をマッチングさせる役割もになう。支援策が次々に実現する一方、日本の行政が抱える問題も見えてきた。

「仕組みや制度をつくっても、一人ひとりのお困りごとを聞き取り、臨機応変に支援策を見直すことが生きた結果につながっていきます。現状では、縦割り行政や申請主義、紙の書類など多くのハードルがあります。ウクライナはデジタル化が圧倒的に進んでいるため、避難者は余計に困ってしまうようです」(横山氏)

「さらに言えば、ウクライナは女性の自立率が高いんです。彼女たちは支援だけに依存している環境を変えようと懸命に努力しています。なんとかその努力に見合う環境を整えられるよう協力を続けていこうと思います」(田口氏)

“他者の喜びを自分の喜び”に。
その喜びの原体験を子どもたちに伝えたい

ウクライナをはじめ、世界中でさまざまな支援をしているYMCAでは、自らの姿勢を「伴走」と表現し何より大切にしている。これは“あたえる側”と“あたえられる側”という関係ではなく、避難者一人ひとりの人生に寄り添うというYMCAの精神が息づいている。0歳から100歳まで、さまざまな国の住民や、民族など、幅広い人々に応じた多彩なプログラムを提供している団体だからこそ可能な支援だ。

「人間って、他人の喜びを自分の喜びと感じことができるんですね。自分の喜びになればなるほど、さらに前向きになり、自分自身ももっと成長したいという気持ちになる。そういう経験を積み重ねると、まだ見ぬ隣人のために行動する力が自然と養われます。若者や子どもたちに、そういう人間の喜びの原体験をつくっていくことも私たちの仕事なのです」(田口氏)

「A YOTSUYA」で、ウクライナの避難者をYMCAとともに支援するサンフロンティアもまた「伴走」するパートナーだ。

「サンフロンティアさんには、かなり早い段階からご相談させていただき、A YOTSUYAをウクライナ・カフェHIMAWARIとして使用させていただくことに快くご協力をいただきました。そのうえ場所だけではなく、のべ200人以上の社員ボランティアの皆さんに毎週末お手伝いいただき、唯一無二の支援活動ができてすごく感謝しています。サンフロンティアのクレドは「利他」とお聞きしましたが、志が一致すれば、どんな団体や組織も強いんですね」(横山氏)

最後に、お二人に次なる目標を聞いた。

「前例のないことを進めていくのは暗闇のなかを歩いていくようなものですが、今後訪れる様々な変化にも組織的に対応していく決意です。とくにコロナ世代といわれる若者には、私たちの活動を通して、乗り越える力や前向きに生きる力を育んでもらいたいと思っています」(田口氏)

「誰でもが『暮らしやすい社会ってどんな社会だろう?』と考えることがあります。些細な違和感や生きづらさを、互いの立場を超えて発信できるようなプラットフォームをつくりたい。特に、若い人のエネルギーを、社会をより良くしていく力に変えることに貢献できたらと思いますね」(横山氏)

取材を終えても、ウクライナの現状や避難者への想いなどを熱く語り続ける田口氏と横山氏。さまざまな壁があるため、思い通りの支援がなかなか実現できないこともあり、悔しい想いをすることも少なくないというが、その表情からは避難者に“伴走”する日々がとても充実していることがわかる。2人の目には、いつか訪れるウクライナの平和と人々の笑顔が映っているにちがいない。

Next Frontier

FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン

コロナ世代の若者に、前向きに生きる力、
乗り越える力を。(田口氏)
社会の中の生きづらさを発信できる
プラットフォームをつくりたい。(横山氏)
編集後記

ロシアによるウクライナ侵攻開始以降、戦地の悲惨な状況や戦禍から逃げ惑うウクライナの人々の姿が連日報道されています。しかし時が経つにつれ、その報道はだんだん少なくなってきているような気がします。こうして編集後記を書いている今でも、多くの人々が嘆き苦しみ、恐怖に怯える日々を送っています。東日本大震災以降、若者の間ではボランティア意識が向上していると聞きます。YMCAのような長い歴史に支えられた支援はできなくても、常に関心を持ち続けることは大切ですね。ウクライナに一日でも早く平和な日々が訪れることを願ってやみません。

いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。

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関連先リンク

公益財団法人日本YMCA同盟が日本へと避難してきたウクライナの人々に向けたイベントUkraine Cafe HIMAWARIを開催したオフィスビル「A YOTSUYA」

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