FRONTIER JOURNEYとは

FRONTIER JOURNEYでは、サンフロンティアに関わる社内外で活躍するさまざまな「人」に焦点を当て、
仕事への想いや人生哲学を深くお聞きし、私たちが大切にしている「利他の心」や新しい領域にチャレンジし続ける「フロンティア精神」についてお伝えしています。
人々の多彩な物語をお楽しみください。

Vol. 026

ブレずに、本質を貫く。
緩急自在なエリアマネージャーが描く
「東銀座エリア」の未来図とは

松竹株式会社 エリアマネジメントプロジェクトチーム リーダー
渋谷 正芳Masayoshi Shibuya

2023年1月27日

「東銀座」の街が、変わろうとしている。2020年に発表された「都心・臨海地下鉄新線構想」をはじめインフラの更新計画がいくつかあり、銀座と築地に挟まれたこの土地は、今、もっとも高いポテンシャルを秘めたエリアとして、注目を集めている。そのエリアで賑わい創出の陣頭指揮を執る1人が、松竹株式会社が推進するエリアマネジメントプロジェクトチームのリーダーであり、「東銀座まちづくり推進協議会」、「一般社団法人東銀座エリアマネジメント」という2団体を率いる渋谷正芳氏だ。
町会や組合が強い発言権を持ち、企業の思惑が複雑に絡む特殊な土地の未来を背負う男は、我々の質問を「何も考えてないですよ(笑)」と飄々とかわしつつ、本質を見抜く鋭い眼差しを武器に任にあたる。その緩急自在な仕事論に迫った。

地域一丸であたる街づくり。東銀座の地を、「休日に子どもと訪れたい場所に」

華やかな銀座駅周辺から東に歩みを進めると、街の空気は微妙に変わる。松竹が運営する「歌舞伎座タワー」をシンボルとし、オフィスビルが立ち並ぶ落ち着いた大通り。そこから一歩裏通りに入れば隠れ家的な飲食店がにぎわう――。ここ、銀座4丁目から築地4丁目にかけての「東銀座エリア」は、伝統と革新、ビジネスと娯楽がミックスされた魅力的な大人の街だ。とはいえ、歌舞伎座や演舞場を擁し、日本が誇るカルチャーの発信基地であることは相違ないが、それ以外の印象を聞かれるといまいち曖昧かもしれない。インバウンド需要も、両隣の銀座・築地間に比べると一歩出遅れた印象だ。

そんな東銀座の地を活性化させるという壮大なミッションが渋谷氏に与えられたのは、2020年のことだった。

「当時はまだ転職してきて入社2年目で、エリアマネジメントという言葉も知らなかったんですよ。まずエリマネとはなんぞ、ということを調べるところから入りました(笑)。東銀座という街に対しても、自分自身の勤務先であるにも関わらず『働きにくる場所』という認識しかなかったので、時間があれば散策したり、通勤時に自転車で通る道を毎日1本ずつ変えてみたりして、街を知るところからはじめましたね」

東銀座に拠点をおく企業や組合、町会などで組織される「東銀座まちづくり推進協議会」を立ち上げるきっかけは、もともと2020年に開催予定だった東京オリンピックだ。
中央区の観光案内所として晴海の施設が決定していたが、オリンピック開催が1年延期となったことで場所の使用が難しくなってしまう。その代案として松竹は中央区に対し、所有するビルを提案。結局、計画自体は新型コロナウイルスの影響で頓挫するも、東銀座エリアの町内会にイベントの話を持ち掛けるなど、協議会につながるきっかけとなった。

「とはいえ、協議会の立ち上げは非常に苦労しましたね」と渋谷氏。
メンバーには、東銀座を拠点とする企業もいれば、小中学校のような公的な団体もいる。さらに築地本願寺をはじめ、新橋の料亭組合のようなこの地ならではの組織も連なる。それぞれの思惑をひとつにまとめるのは、並大抵のことではなかった。

「企業には企業の思惑があるし、もちろん住民にもそれぞれの想いがある。歴史のある街なので、皆さんプライドを持たれていらっしゃいます。そこに突然一民間企業の人間が旗振り役に名乗り出ても、『何してくれるの、松竹が?』って感じですよね。そこで、まず我々がやるべきことを明確にしたんです。我々の役目は企業と住民の方々をつなぐ役、インバウンドで歌舞伎を見に来る人たちを地域につなぐ役――地域のハブ役になることだと定めました」

まずはイベントごとの企画や発信といった外向きでわかりやすいことをはじめ、街の安心・安全を守る取り組みといった見えにくい部分でも地道に貢献することで信頼を得ることに注力。そのうえで、街づくりという大きな課題に向かって歩みを進めるという体制であたることに。
日々の庶務から街づくりまで課題の大小はあるが、「まずは東銀座を、ここに住んでいる人、働いている人にとって魅力的な場所に変える」ことが、プロジェクトの共通テーマだ。

「その分かりやすい指標のひとつとして、ただ働きにくる場じゃなくて、『休日に子どもを連れて一緒に来たいと思える場所』にしたいというのがあります。まずこの地に縁がある人々が盛り上がってくれれば、自然とそれ以外の人たちにも行ってみたい、住んでみたいと思ってもらえるはずですよね。さらに銀座・築地を目指して来るインバウンドの人たちも加えることができるんじゃないかと考えています」

「本質的な仕事がしたい」。

地方銀行で気づいた、自分の気質

千軍万馬の企業・住人を相手にネゴシエートし、大きな目標に向かってまとめ上げる――そんな壮大なミッションを背負う渋谷氏自身に目を向けてみたい。

「私、例えばビジネスの相手を身なりで値踏みをする、みたいなことには無頓着なんです。相手がノーネクタイや、極端な話ジーパンTシャツで来たからと言って、仕事が出来るとか出来ないとか、マナーがどうということは全く考えないです」

その言葉から推察される通り、渋谷氏はかなり先駆的な考え方の持ち主だ。

「もちろんTPOはわきまえますし、大事にします。ただ、それはあくまで表面的なことですし、大人なら自分で判断すればいいと思っています。そんなことより、話の中身と実績のほうが余程重要でしょう? マネジメントも同じで、部下に対して細かいところまで干渉する気はないので、大きな方向性だけ示して、あとは彼らなりのスタンスと工夫に任せるようにしています」

その考え方から、さぞ先進的な業界を渡り歩いてきたかと思いきや、大学を卒業後、新卒で入社したのは地元の地方銀行だという。

「生まれが東北の片田舎だったんで、都会で満員電車に乗って通勤するなんて自分には無理だろうって思い込んでいたんでしょうね。地元でゆっくり暮らす、みたいなぼんやりしたイメージもあったかな。それ以上はあまり深く考えずに地元の銀行に入社しました」

しかし、いざ就職してみると、旧態依然とした組織慣習と自分が求めていたものとのギャップに気づくことになる。

「入社当初に、自分の将来像がなんとなく見えてしまったんですよね。銀行の支店は、支店長がトップです。最終的に支店長から逆算して、順調に進めば40歳になったらだいたいこのポジション、50歳になったらこのポジションというのがわかってしまう。あとはそこを目指して、道を踏み外さないように進めばいい。新入社員の段階で、もうそれが見えたことで、なんだか嫌になってしまって」

もちろん、人によっては将来が見えることは「安定・安心な人生」に欠かせない要素として、ポジティブに捉えられるものだ。しかし、渋谷氏はそこで安寧な場所にとどまることを良しとしない、自らの“本質”に気づくことになる。

「普段の窓口業務では、みんなスーツの上着を脱いでワイシャツで対応しているのに、頭取が来る日だけ全員上着着用で、窓口が“真っ黒”になるんですよ。そんななか、私ひとりだけがワイシャツで通していたんです。あるとき、その様子を見たお客さまに、『白いの、あんただけだったよ』と言われたことがあって。それにすごく違和感を覚えたんですよね。本来であれば、最も気を使うべきはお客さまのはずでしょう。頭取にいくら気を使ったところで、お金にはならないじゃないですか(笑)。そういう、非効率なルールを当たり前として受け入れることも、耐えられなかった」

ルールに振り回される暇があったら、本来の仕事に向かうべきではないか。より厳しい環境で成長の機会を得ようと、次に飛び込んだのは、金融系企業の不動産部門だった。

そこで、渋谷氏のなかに元来あった“ネゴシエーター気質”が花開くことになる。

「その仕事は内容的にハードな交渉も多かったんですね。交渉相手として、弁護士と直接やり合わなければいけない場面もあった。最初は怯んでいたんですが、何回か経験していると、意外に相手に絶対的な利があるわけでもないぞ、ということがわかってきました。弁護士は法律のプロですが、現場のプロじゃない。口ではなんと言おうと『ここがわかってないな』と思ったら、弁護士だろうがそこを突けば対等な交渉ができる。そのあたりで免疫はできたのかなと思っています。……とはいえ、私は普段はいい人です(笑)」

「ブレない」「根本を見る」。ネゴシエートの秘策とは

プロジェクトがスタートしたあとも、老舗企業、組合がひしめく銀座の地のステークホルダーの利害の調整は、困難の連続だった。窓口を務める渋谷氏には、各町内会からの呼び出しもしょっちゅうかかるという。問題が起きたとき、渋谷氏が決めていることは、「ブレない」ことだ。

「一度決めたら、何があっても軸はブラしません。協議会のメンバーが何十人もいるなかで、方々に頭を下げることはもちろんありますし、上から下まで根回しも図りますが、根本をブラしたら全員再調整になって、まとまらなくなってしまいます。だからその場でどんなに詰められようが、根本の軸だけは死守しますね」

そのうえで、交渉の秘策は「相手の根本を探る」ことだと明かす。

「この人は何を考えているのか、何を言ったら刺さるか、ということを常に考えて会話します。例えばテナントのリーシングだったら、賃料条件だけが絶対とは限りません。その場所への思い入れだったり、別のところにあったりする。会話のなかでそれを探り、最終提案でどこに持っていくかはすごく考えますね」

そのために、まずは相手の話を徹底的に聞いて、コミュニケーションする。「本質」にこだわる男の秘策にしては意外な泥臭さだが、ここ一番で要となるのは、結局はエモーショナルな部分だ。

「ひたすらコミュニケーションをとって、少しずつ相手に踏み込めるようになると、会話のなかで、根本的なキーワードが出てきます。協議会でもそれは同じで、とんでもないクレームがあったとしても、別にちゃぶ台をひっくり返したいわけではなくて、ひとこと言いたいだけ、という気持ちからだったりするんですよね。実は本人にも分かっていないかもしれないことが、コミュニケーションをとることで見えてくるんです」

「とはいえ、普段は何も考えてませんから(笑)」とすかさずかわす。その緩急の絶妙な匙加減も、ネゴシエートのテクニックのひとつなのは間違いないだろう。

街づくりとは、地道な作業の連続。「しんどいけれど、ワクワクが上回っている」

地下鉄新線の完成時期は、現時点で2040年以降を予定。東銀座の景色が一変する頃には、渋谷氏をはじめ立ち上げメンバーの多くが、すでに現場を離れていることが予想されるほどの超長期計画だ。
そもそもが街づくりというゴールが見えないミッション。仕事のモチベーションは、どこに据えているのだろうか。

「大きいことはあまり考えてないんです。日々、今までできなかったことや、やっていなかったことをひとつずつできるようにしていこう、と。それだけです。2022年12月に東京都からある許可をもらったのですが、そういう小さなハードルを一つずつクリアしていくことがうれしいんですよ。その許可があることで今までできなかったことが、ひとつできるようになる。街づくりってひと言でいうと壮大ですが、結局は、そういう小さなことの積み重ねの先にあるものじゃないかなと思っているんですね。小さなことを重ねていくと、いつの間にか街が変わっている、そういうことなんじゃないかな、と」

日々、目の前の小さなハードルを越えるために相手の話を聞きに行く。必要な許可を取りに行く。それは「街づくり」という壮大な言葉からは想像がつかないほど、地道な作業だ。「手柄を立てたい」「成功したい」という私欲先行では、大きな仕事は、どだい成し遂げられないということを、改めて思い知らされる。

「極論、自分がやる必要もないと思っているんです。今は時代の変化も激しいから、何十年後も先の未来のことを『絶対こうしよう』とは設定できない。『まあ、都度変えようね』みたいな感じで、つくっていくなかでいろんな要素を追加したり引いたりしていくしかないなと。ただし、軸はブラさずに。自分の目先のやるべきこと、せいぜい1年後とかのスケジュールを立てて、それをクリアしていくしかないと思っています」

思考錯誤しながら、地道に歩を進める。そうしてたどり着いた場所には、当初は予想もしなかった景色が広がっているに違いない。

「それを、柱の陰から『へへッ』と笑って見ているのが好きなんです(笑)。誰かが『あれすごいよな』みたいな話をしていたときに、『それ、俺』って心の中でドヤ顔したい(笑)。もちろん、しんどいことはたくさんあります。無茶ぶりばかりだし、いろんな人にいろんなことを言われる立場です。しんどいけれど、今はワクワクがちょっとだけ上回っている。だから、仕事は楽しいですね」

徹底的な合理主義かと思わせておきながら、最後はエモーショナルに刺しにくる。その緩急自在なビジネス哲学の持ち主が、東銀座エリアをどう変えていくか、未来が楽しみだ。

Next Frontier

FRONTIER JOURNEYに参加していただいた
ゲストが掲げる次のビジョン

今までできなかったこと、やっていなかったことを、一つひとつクリアしていく。きっと、大きなゴールは、その先にある。
編集後記

街づくり、という想像を超える大きなミッションは、選ばれた人たちの「天の采配」によっていつの間にか進められているもの――。そんな思い込みを覆された取材でした。魔法のように作り替えられる街並みも、分解すればネゴシエートや許可取りと、一つひとつの地道な作業の積み重ねであり、それはたくさんの途方もない努力の集積ということに気づかされます。
手に負えそうもない仕事に立ち眩みそうになったら、渋谷さんのように、まずは足元を見る。そして迷ったときは「軸」に立ち返る。規模や内容はさまざまなれど、どんな仕事にも通じる仕事の哲学をいただくことができました。

この3月、FRONTIER JOURNEYのライブ配信版 FRONTIER JOURNEY Live! がスタートしました。
第1回のテーマは「東京を世界一愛されるグローバル都市へ!『銀座』流の街づくり」です。
ご視聴はこちらから:第1回 FRONTIER JOURNEY Live!

いかがでしたでしょうか。 今回の記事から感じられたこと、FRONTIER JOURNEYへのご感想など、皆さまの声をお聞かせください。 ご意見、ご要望はこちらfrontier-journey@sunfrt.co.jpまで。

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